2024年9月3日
はじめに
去る8月18日、都知事選で2位と健闘した石丸伸二前安芸高田市長は「(まもなく実施されるであろう解散総選挙で)次の立憲民主党の党首の方の選挙区で僕が出ます」「僕が立憲民主党の代表に勝ったら、僕を立憲民主党の党首にしてください」とYouTubeで語った。本人も「今の、たとえですけど」と断っており、石丸が話題作りのために立憲を〈おちょくった〉だけであろう。
しかし、立憲や立憲に関心のある人は石丸のYouTubeを一度はちゃんと見るべきだ。[1] 上記〈提案〉の前段で、石丸はこう述べている(抜粋)。
(立憲民主党の代表選は)まったくと言っていいほど、話題になってない。この立場で政権交代とか言えないでしょ? 恐ろしいほど無視されている。なんで慌ててないのかな? びっくりします。穿った見方すると、今の万年野党のポジションの座り心地がいいのかなって勘ぐってます。つまり、文句だけ言う、悪口だけ言う、それに一定程度共感してくれる国民、絶対いるんですよ。で、現職が食うに困らない議席を守る。でも、これって最悪の政治屋ですよ。民主主義に寄生してるだけじゃないですか。さすがにそこまで落ちぶれてないでしょ?
石丸にこんなことを言われて、さぞかし不愉快なことであろう。だが、立憲はこの言葉を無視してはならない。何故なら、石丸だけでなく、国民の相当部分がこう思っているからだ。石丸の批判(=多くの国民の批判)に立憲はどう答えるつもりなのか? そもそも、答える気はあるのか?
私は現在、立憲民主党の党員でもなければ、何が何でも立憲に投票するような岩盤支持者でもない。それでも、自民党に対抗できる政党を現存する野党から選べば、消去法で残るのは立憲民主党しかないと考えている。そんな立場に立ち、AVP本号では(失礼と思いながらも)1つ、問題提起を行う。
立憲民主党は代表選の仕組みを抜本改革し、議員票と一般党員の1票の格差を完全になくしたらどうか? もちろん、今さら言っても今月23日に投開票される次期代表選には間に合わない。だが、来る総選挙を何とか生き残った後、やる気さえあれば、年内に代表選規則を改訂することはできる。そのうえで新代表を選び、来年の参院選を戦うのである。
立憲代表選の現状
立憲民主党の代表選では、①国会議員、②公認候補予定者、③地方議員、④党員及び協力党員という枠でそれぞれ異なるポイントが与えられる。それを説明したのが下図である。[2]
今回の代表選では、国会議員(136人)は2ポイント/人で272ポイント、国政選挙の公認候補予定者(98人)は1ポイント/人で98ポイント。両者の合計を折半した185ポイントが地方議員(1,236人)と党員・協力党員(114,792人)に各々割り当てられる。そして投票が行われ、総ポイント(740P)の過半数をとった候補者が代表となる。
今回の場合、単純計算すれば、地方議員は1人0.30ポイント、党員・協力党員は1人0.0032ポイントになる。党員・協力党員と国会議員の1票の較差は単純計算で620倍! 公認候補予定者が少なかった前回代表選挙では、1票の格差は1,429倍にのぼった。[3]
1回目の投票で過半数を獲るものがいなければ、上位2名で決選投票が行われる。その場合、投票権を持つのは国会議員(1人2ポイント)、公認候補予定者(1人1ポイント)、都道府県連の代議員(1人1ポイント)。党員・協力党員に投票権はない。
これでは、党内民主主義が機能しているとはとても言えない。前回代表選で党員・協力党員の投票率が46%しかなかったのも、「幽霊党員」が存在しているだけではなく、党員・協力党員の間に「投票しても意味がない」という無力感があるからであろう。[4]
これだけ国会議員票の比重が高いと、代表選びでは、党内の国会議員が党内の主導権やポストを争ったり、グループ単位で親分の命令に従ったりということが横行する。立憲民主党というコップの中で、国会議員団というコップの中の嵐が行われるわけだ。党員・協力党員の声にすら耳を傾けない党なのだから、国民世論が期待する政策や党運営から遠ざかっても不思議ではない。
他党の党首選び
前節でみた代表選の仕組みは、民主党時代から引き継がれてきたものである。2012年12月に下野して以来、民主党とその後継政党は冬の時代を過ごしているが、これまで改革の機運はあまり出てこなかった。その理由の一つとして、永田町やメディアの間に「日本はこれでいい」という意識が蔓延していることが挙げられる。他党の党首選びを見てみよう。
〈自民党〉
自民党総裁選の仕組みは下図のようなものだ。[5] 基本的なスキームは立憲と似ているが、国会議員票と党員票が2分の1ずつなので、全体の票に占める党員票の割合は立憲(=4分の1)よりも大きい。一方、自民党の党員数は立憲の約10倍なので、仮に前回の総裁選並みに110万人として単純計算すると、党員1人当たり0.0003票。1票の格差は約3千倍となる。
〈公明党〉
公明党は党大会へ出席する代議員395人の選挙で代表を選出する。実質的には、創価学会の意向も汲みながら執行部が決めた代表を追認する儀式のようなもの。党員45万人は蚊帳の外だ。
〈共産党〉
共産党の説明によれば、地方組織から選ばれた代議員が中央委員を選出し、その中央委員会で党首(幹部会委員長)を選出することになっている。ただし、党最高指導部の常任幹部会で作成した人事案は中央委員会で必ず承認されることになっている。[6] 党員25万人が党首選びに直接関与することはない。
〈日本維新の会〉
主要政党の中ではおそらく日本で唯一、党首を選ぶ選挙で議員と党員の1票の重みが同じである。2022年8月に行われた代表選では、国会議員・地方議員・首長等の「特別党員」586人と一般党員19,293人が1人1票で投票した。[7] 維新の場合は決選投票がないため、最多得票者が一発で代表になる。
ただし、これを以って維新では党内民主主義が貫徹していると考えると、維新の思う壺にはまる。表向きは全国政党と言っているが、維新の意思決定は国民から直接目の届かないところで大阪勢が牛耳っている。[8] それを担保する仕組みが、党首選における1人1票制と決選投票の省略なのだ。
維新は大阪の地域政党として発展したため、一般党員も関西に偏在している。2022年の代表選では一般党員票の6割以上が大阪などの関西票だった。大阪選出の国会議員、首長、地方議員が地元の支持者から成る党員に働きかければ、大阪グループの担ぐ候補者を確実に代表とすることができる。自民や立憲のように国会議員票と一般党員票の間に格差を設ければ、将来、全国で国会議員が増えた時に〈大阪による支配〉が危うくなりかねない。
英国の場合
目を海外に広げてみるとどうか? ところ変われば政党の仕組みも大きく変わる。例えば米国の場合、カマラ・ハリスは民主党、ドナルド・トランプは共和党の次期大統領候補に選ばれたが、2人は両党の党首ではない。そもそも、民主党や共和党には、我々の考えるような党首は存在しないのである。
本節では、日本と同じ議会制民主主義国である英国の保守党と自由民主党の党首選について、国会図書館の宮畑建志氏の資料等を参考にしながら概観する。[9]
〈英国保守党〉
保守党の場合、党首選に立候補できるのは下院(庶民院)議員のみで、下院議員の推薦人とその賛同者各1名がいればよい。
党首選びは、候補者が2名であれば、「1党員1票」の選挙一発で決まる。候補者が3人以上いる時は、下院議員が「1議員1票」の秘密投票を行い、得票数で最下位の者を落とすことを繰り返して候補者を2名に絞り込む。下院議員が予選を行い、決勝は一般党員が決める、と思えばよい。[10]
〈英国自由民主党〉
自由民主党は今年7月に行われた総選挙で下院の11%に相当する72議席を獲得した。その党首選に立候補できるのは下院議員のみ。党所属下院議員の10%以上の推薦と200名以上の党員の支持を得る必要がある。[11]
投票は「1党員1票」で行われ、過半数の支持を得た候補が党首となる。特徴的なのは、優先順位をつけて投票すること。例えば候補者が3名(A、B、C)であれば、「第1順位=A、第2順位=B」のように優先順位を付す。1回目の投票による獲得票が「A=40%、B=35%、C=25%」であれば、Cに投じられた票の第2順位分をA、Bの獲得票に足す。仮にCに入れた投票の第2順位がA=5%、B=20%なら、Bの得票数は55%となり、Bが逆転勝利する。候補者数がもっと多い場合には、過半数を得る候補が出るまで同様のプロセスを繰り返す。
〈1党員1票を採用する動き〉
優先順位をつけて投票を行う方式は単記移譲式投票と呼ばれる。カナダの2大政党であるカナダ自由党とカナダ保守党の党首選挙もほぼ同様の仕組みで行われている。
また、議会制民主主義制ではないが、東アジアの近隣国でも党員の直接選挙で党首を選ぶ政党は珍しくない。台湾の民進党、国民党しかり。韓国の与党「国民の力」に至っては、〈党員投票と世論調査を合算〉して代表を選ぶ。[12]
提案
立憲民主党は、党改革の第一歩として、代表選の仕組みを抜本的に変えてはどうか? 私の提案の要点は以下のとおり。
- 代表選へ立候補できるのは、党所属国会議員であって党所属議員数の1割以上の推薦人を集められた者とする。(現在の党勢に当てはめると、必要な推薦人は14人。)
- 1党員1票で単記移譲式投票を行い、過半数を得た候補者を代表とする。
現在の仕組みでは、代表選に立候補するためには、国会議員20~25人の推薦が必要。昔の民主党には所属国会議員数が200~400人もいたが、今は135人しかいない。今回、現職の代表や若手議員が立候補に四苦八苦していることからもわかるとおり、このハードルは高すぎて、選挙が活性化しない。立候補段階から党内の有力議員の思惑や合従連衡が大きくものを言うことになり、党内民主主義の観点からもよろしくない。
ただし、必要な推薦人数が少なすぎると、党内基盤を全く持たない者が乱立して焦点がぼやけたり、不正な外部干渉を受けたりする可能性が出てくる。どんなに下げても、5%程度を下限とすべきである。
現在、党員票と議員票の間には、ため息の出るような「1票の格差」がある。正気な党員であれば、この党は「自分たちの党」ではなく「議員先生の党」と思うのが当たり前。党員をこれほど見くびっておいて彼らに忠誠心や情熱を求めるのは、虫がよすぎる。
今日、選挙での勝利には無党派層の支持を得ることが必須である。しかし、党員でさえシラケているような政党に無党派層が熱狂することはない。国会議員等が党内統治上の特権を手放し、議員も一般党員も等しく1党員1票で代表を選ぶくらいのことをして初めて、世間も「立憲は変わり始めた」と思うだろう。
決選投票に党員・協力党員の意志が反映されないのもおかしい。経費や時間を節約しようと思えば、英国自民党などのように〈支持する候補に優先順位をつける〉方式で投票を行うのが最も簡便である。
もとより、立憲が党員の直接選挙で代表を選ぶようになれば、党勢の回復が保証されるというわけではない。海外の事例を見ても、そんな都合の良い話はむしろ稀である。だが少なくとも、立候補に必要な推薦議員数を引き下げ、1党員1票で代表を選ぶことにすれば、候補者は永田町にある党内論理に右顧左眄しても代表になれない、という状況が生まれる。彼らは、党員・協力党員の支持を得るために必要な政策や路線を検討したり、〈草の根〉党員とコミュニケーションするための技術を磨いたりすることを迫られる。その結果、代表や議員の力が向上すれば、選挙にもプラスに働くだろう。
一方で、自分の1票が代表選を左右すると思えば、党員・協力党員も党運営にもっと関心を持つようになる。そして、〈自分が対等の立場で参加した選挙〉で選ばれた代表とその党に対する支持も強まるはずだ。[13]
おわりに
党首選びに「1党員1票」制を導入することは、議員や党幹部にとっては決して居心地のよいものではない。だから、英保守党の場合を含め、海外でも選挙での惨敗等の危機をきっかけにして採用されたケースが多い。つまり、党内民主化の推進によって一般党員の支持を拡大・活性化し、党の生き残りを図ろうとする力が、既得権益を守りたい議員の心理に勝ったということ。一方で民主党は、2012年12月の総選挙で大敗北を喫したにもかかわらず、後継政党も含め、党名変更や分裂と再統合を繰り返したにすぎない。代表選のあり方を含め、真の意味で党改革と言える動きは殆ど見られなかった。
国民の中には今も、立憲民主党が自ら党改革に取り組む姿を見たいと願う人々が少なからずいる。しかし、何度も待ちぼうけを食らわされた結果、その人たちの忍耐もそろそろ尽きようとしている。立憲はその前に自己改革を始められるのか? 時間との勝負である。
[1] 【2024.8.18開催】Meet-up オンライン#14 (youtube.com) 本稿の引用は40分35秒から43分までの部分から切り抜いた。
[2] 代表選挙2024 – 立憲民主党 (cdp-japan.jp) 9月3日にAVP第69号をニューズレターとして配信した際には、2021年の代表選に関する説明図を使用していた。9月2日の夕刻時点で立憲のHPには今回の代表選に関する説明がなかったためである。
[3] 地方議員と党員・協力党員の票はドント方式でポイント配分される。だが、細かい正確性を求めても仕方がないと思うので、ここでは単純な割り算で1票の格差を計算した。自民党についても同様である。
[4] 立憲党員・サポーター投票率46% 地方議員は91% 代表選 | 毎日新聞 (mainichi.jp)
[5] 総裁公選の仕組み 2024年版 (jimin.jp)
[6] 知りたい聞きたい/党首の選び方どう考える?/党の統一と団結を大事に (jcp.or.jp)
共産党の指導部人事は「派閥を作らぬ」独自のシステム 党首公選制を求める声も – 産経ニュース (sankei.com)
共産指導部人事、その選挙は自由? 党員から疑問視 18日決定 | 毎日新聞 (mainichi.jp)
[7] 議員と党員も1票の重みは同じ 「格差なし」維新代表選に困惑も | 毎日新聞 (mainichi.jp)
[8] 例えば、日本維新の会の日常的党務執行の最高機関である常任役員会のメンバーは16人だが、大阪選出の国会議員、大阪府知事、大阪市長、門真市長、大阪市議会議員、大阪府議会議員等が14名を占める。 常任役員|役員・議員・支部長|日本維新の会 (o-ishin.jp)
[9] 政党リーダーの選び方―諸外国主要政党の党首選出手続を中心に―(資料) (ndl.go.jp)
Liberal Democrat leadership contests | Institute for Government 労働党の場合、議会・一般党員・労働組合等に3等分されたブロック毎の得票率を合計する形で選挙を行い、党首を決める。やや特殊なので紹介は割愛する。
[10] 候補者が1名の時は、その候補者が党首になる。ただし、党員投票による承認が求められる場合もある。
[11] 正確には「20以上の地区政党(青年及び学生を代表する特定関連団体を含む)から合計200名以上」の党員の支持が必要となる。(前掲『政党リーダーの選び方』より。)
[12] これまでは「党員投票80%と国民世論調査20%」を合算していたが、次期代表は「党員投票70%と国民世論調査30%」の合算で選ぶそうだ。 国民の力が来月行われる全党大会で党員投票80%と国民世論調査20%を合算して次期代表を選出することを13日、決定した。国民の力非常対策委員会はこの日の会議で「党員投票70%·世論調査30%」と「党員投.. – MK
[13] 現状ではおそらく、党員・協力党員の相当部分は議員の後援会や組合・団体の構成員が相当数を占めていると思う。私の印象では、それも〈お付き合い〉で仕方なく党員になっている面が強く、彼らが党に対して大きな忠誠心や情熱を持っているわけではない。ましてや、そうした〈しがらみ〉を持たない党員・協力党員の多くは、党の活動に対して醒めているのではないかと危惧する。