東アジア共同体研究所

専守防衛を充実させるための5つの課題~ウクライナ戦争に学ぶ日本の防衛力整備④   Alternative Viewpoint 第46号

2022年11月22日


 

 AVP 前号では、日本の対中防衛政策の要諦は「専守防衛の充実」にある、と論じた。[1] 本号では、そうした観点から見た時に日本の防衛力整備が取り組むべき5つの課題を指摘する。


課題1. 射程の戦い

前号でも述べたとおり、専守防衛が機能するためには、日本の領土・領海・領空のみならず、日本周辺の公海及び公空で航空優勢・海上優勢――敵の航空機や艦船を撃退するうえで優位な状況――を維持・拡大することが必要不可欠である。[2]
航空優勢を獲れるか否かには、彼我の戦闘機等の性能や数レーダー網を含めた防空システム空軍基地からの距離など、様々な要素が絡む。[3] 現状、(レーダーで捕捉されにくい)ステルス性能や電波戦対応能力では、自衛隊のF-35は中国の最新鋭戦闘機よりも幾分優れている。しかし、数の面では、2022年時点で中国軍が保有する第4・第5世代機は1,270機と自衛隊側の319機を圧倒し、在日米軍の存在を加味しても分が悪い。中国の空軍基地に近ければ、出撃可能回数の較差はさらに拡大する。[4] そこで今、精密誘導性能と並んで関心を集めているのが、〈飛び道具〉の射程の長さで優位に立つことだ。[5]

≪スタンド・オフ・ミサイル≫

近年、防衛省・自衛隊が「射程の戦い」の観点から積極的に導入しようとしているのが、今話題の「スタンド・オフ・ミサイル(本稿では以下、SOMと表記)」である。[6] SOMとは〈相手の迎撃ミサイルの射程外から相手を攻撃できる射程を持ったミサイル〉のことだ。[7]

【スタンド・オフ・ミサイルの運用構想図】[8]

報道によれば、政府は1,000発または1,500発超のSOMを保有する方針だと言う。[9] 「どの程度の期間で」という部分は不明だが、方向性は正しい。数も格別に多すぎることはない。戦争が長期化すれば、これでも足りなくなる。

政府は今、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾(射程200㎞前後の巡航ミサイル、三菱重工製)を大幅改良して射程1,000㎞以上に伸ばし、戦闘機や艦船にも装填できるようにしようとしている。その際に重要なのは、陸海空の間で適切なバランスをとること。陸上配備ではミサイル発射後に追加充填しやすいため、撃てるミサイルの数は多い。だが、比較的狭小な島嶼部に配備されるため、中国側のクラスター・ミサイル攻撃や所謂「絨毯爆撃」に対しては脆弱と考えられる。敵の攻撃を受けても〈生き残る〉という意味では、空発型(航空機搭載)や艦発型(潜水艦を含む艦船搭載)の方が優れている。

なお、少なくとも予見しうる将来に限って言えば、「スタンド・オフ・ミサイル=敵基地攻撃能力(反撃能力)」であるかのごとき解説は〈針小棒大〉と言わざるを得ない。この点についはAVP 第43号で詳しく説明したとおりだ。[10]

≪トマホーク導入?≫

去る10月28日、読売新聞は「(日本政府が)米国製の巡航ミサイル『トマホーク』の購入を米政府に打診している」と報じた。[11] 導入が決まったわけではなさそうだが、私の感想を2点述べておきたい。

第一に、「トマホーク=敵基地攻撃能力」と言えるか否かは、日本が購入・配備するトマホークの数、射程、配備するプラットフォーム等によって大きく変わる。[12] トマホークの最大射程は、機種によって1,250~3,000㎞。日本が射程3,000㎞のトマホークを配備するのであれば、これは(「届く」という意味で)明確に敵基地攻撃能力の保有に踏み出した、と言ってよい。[13] 一方で、最大射程1,250㎞程度であれば、中国大陸にある飛行場や港湾を叩くという意味での実効性は低い。[14] 巡航ミサイルの場合、実戦での有効射程は最大射程の半分程度になるためだ。トマホークを航空機等に装填して中国大陸に接近してから撃てば、距離的な問題はある程度解消する。ただし、それが可能か否かは日米がどの辺りまで航空優勢を獲れるかに左右される。[15]

第二に、トマホークを導入する理由については〈騙し〉がある。報道では「『12式地対艦誘導弾』改良型の配備が早くても2026年度になるため、その〈隙間〉を埋めるためにトマホークを購入する」という解説が行われている。しかし、万一台湾有事が明日起こったとすれば、米海軍及び米空軍はトマホークを搭載した艦船や航空機を直ちに日本に配備する。安全保障上は隙間などできない。もっと言えば、近い将来、台湾有事が起きる切迫性そのものが、本当は低い。[16] 「隙間を埋める必要がある」という理由付けは、トマホークを導入したいが故の〈後付け〉であろう。

 

課題2. 状況把握をめぐる競争

米軍統合参謀本部副議長だったジョン・ハイテンによれば、2020年10月に米軍が実施したウォー・ゲームにおいて、米軍は緒戦段階で「情報の圧倒的優越(information dominance)」状況を失った結果、中国軍に対して惨めな敗北を喫した。[17]
湾岸戦争以来、米軍は敵のレーダー網や通信施設等を破壊する一方で、自軍の優れた警戒監視網は無傷のまま、戦争を遂行してきた。「米軍には相手の動きがわかるが、相手には米軍の位置も自軍の動向もわからない」状況を作り上げた結果、米軍は敵を圧倒できた。[18] ところが、現在の中国軍が相手だと話は変わる。中国軍は緒戦段階で米軍の衛星やレーダー機能、部隊間のネットワーク等を(物理的あるいはサイバー攻撃等で)無力化する能力を持っている可能性が高いからだ。
この見方が正しければ、自衛隊も緒戦段階から状況把握面で中国軍の後手に回り、厳しい戦いを強いられる可能性が高い。スタンド・オフ・ミサイルを揃え、公海・公空で迎撃すると言ったところで、相手の動きがわからなければ〈絵に描いた餅〉だ。航空優勢や海上優勢を獲得するどころではない。自軍の状況把握能力(及びネットワーク機能)をいかに守り、相手のそれをいかに破壊するか、というテーマは防衛力整備における最重要課題の一つである。[19]

≪地上及び空中≫

有事の際に敵の(無人機を含む)航空機やミサイルが飛来すれば、自衛隊は日本全国に展開するレーダーサイト早期警戒機(E-767、E-2C)等で得られた警戒監視情報をJADGE(ジャッジ)と呼ばれる自動警戒管制システムで一元管理し、戦闘機や対空ミサイル部隊、海自艦船等につないで迎撃対処する。[20]

【日本の固定レーダー網イメージ】[21]

中国軍が在日米軍や自衛隊を本気で叩こうと思えば、まず破壊したいのは米軍と自衛隊の「目」であろう。沖永良部島、久米島、与座岳(糸満市)、宮古島にある固定式レーダーは真っ先にミサイル攻撃または空爆を受ける可能性が高い。ミサイル防衛や防空体制を強化すべきことは当然だが、現実にはそれでも防ぎきれまい。したがって、早期警戒機、警戒監視用無人機、護衛艦、そして移動式3次元レーダー(TPS-102)を多重展開し、固定式レーダーをやられた時には不完全でもバックアップできる態勢を作るべきだろう。「飛び道具」も大事ではあるが、この分野に予算を割かない日本防衛などできない。[22]

【TPS-102 移動式レーダー】[23]

※ 円筒のように見えるのがレーダー部。

≪海中≫

海中の場合、警戒監視は「目」と言うよりは「耳」と言うべきだろうか。米軍はSOSUS(ソーサス)と呼ばれる音響監視システムを持ち、西太平洋の海底に設置したソナー(水中聴音機)によって中国の潜水艦等の動きを探知している。海上自衛隊も日本周辺海域でSOSUS類似の監視システムを運用している模様だ。中国海軍も米軍と同様の監視態勢をとっていると考えられている。

ブルッキングス研究所のマイク・オハンロンは、相手の音響監視システムの所在がわかっていれば、米中双方は緒戦段階でそれを潰しにかかると予測する。[24] 音響監視システムを失った方が潜水艦作戦で不利に陥ることは言うまでもない。対策としては、音響監視用の水中ドローンを開発・配備することくらいしか思いつかない。

≪宇宙≫

湾岸戦争は「宇宙を使った最初の戦争」と言われた。これに対し、ウクライナ戦争は「交戦国の双方が宇宙を使った最初の戦争」になった。[25] 対中有事においても、米軍・自衛隊・台湾軍、そして中国軍という戦争の全当事者が、警戒監視情報の取得、軍隊内のネットワーキング、兵器の精密誘導など、様々な面で宇宙空間に大きく依存しながら戦うことになる。
前述のオハンロンは、米中が戦うことになれば、相手の衛星を無効化するため、双方がミサイルや高出力レーザーなどによる物理的な破壊、ジャミング、サイバー攻撃を仕掛ける、と予想する。[26] 自軍の衛星が全滅し、相手の衛星が生き残っていれば、戦いは決定的に劣勢となる。逆の状況を作れれば、こちらが圧倒的に有利だ。

自衛隊は今後、宇宙への依存をますます強めていく。しかし、日本の経済力と技術力を考慮すれば、自前での対応は正直、無理であろう。衛星コンステレーション――GPSが高度2万㎞・約30機の衛星で全地球をカバーするのに対し、こちらは高度2千㎞以下・数千機の小型衛星を連結して運用する――の導入を含め、国際協力や民間との共同などを進めるしかない。[27]

【衛星コンステレーションのイメージ】[28]

※ 上図は将来、衛星コンステレーションを使ってHGV(極超音速滑空兵器)を迎撃する場合のイメージ。衛星コンステレーションを使って敵の艦船等をスタンド・オフ・ミサイルで攻撃することも当然可能となろう。

 

課題3. 兵器の生き残り

AVP 第45号で述べたように、日本(及び在日米軍)の防衛アセットを守り切ることができれば、中国は戦争目的を達成することが困難になる。核兵器を持つ軍事大国を相手に戦う場合、「攻撃は最大の防御」ではなく、「防御は最大の攻撃」と考えた方がよい。

≪航空自衛隊「15分全滅」説≫

一部の防衛関係者の間では、かなり以前から「中国との間で戦争になれば、航空自衛隊は開戦から15分(または数時間)で全滅する」という説がまことしやかに語られてきた。[29] 中国が空自基地を精密誘導ミサイルで攻撃すれば、空自の戦闘機は地上でことごとく破壊され、滑走路等もボコボコにされて使いものにならなくなる、という意味だ。〈都市伝説の類い〉かと思われるかもしれない。だが、米国のシンクタンク等もきちんとした分析を行い、同種の懸念を表明している。

例えば、2017年に米国の新アメリカ安全保障センターが行ったシミュレーション。中国が弾頭ミサイル攻撃を集中的に行い、在日米軍の保有する200機以上の航空機、移動式でない指揮所、ほとんどすべての滑走路、そして港に停泊している多くの艦船が30分以内に破壊される、という結果が出ている。[30]

日本が今後、1機百数十億円のF-35戦闘機を増やしたり、スタンド・オフ・ミサイルを導入して打撃力を強化したりしても、それらが地上で破壊されたり、滑走路が破壊されて離着陸できなくなったりすれば、航空優勢どころの話ではない。相手の攻撃を受けた時に自衛隊の兵器、弾薬、指揮命令系統等の残存可能性――防衛用語で言う「抗堪性」――を高めることは、防衛力整備上、必須だ。[31]

≪分散配置≫

中国のミサイルに対する飛行場等の防御はどうしたらよいのか?[32] 「だからこそ、敵基地攻撃能力(中距離ミサイル)で中国のミサイル発射車両を叩く必要があるのだ」という主張は一種の詐欺であり、何の役にも立たない。移動する標的をミサイルで破壊できないことはAVP 第43号中の「誤解②」で詳しく説明したとおり。[33]

今、最も有効と考えられているのは、自衛隊機等をなるべく多くの空港に「分散配置」し、一度のミサイル攻撃で破壊される航空機の数を抑え、攻撃を免れた空港から反撃するという構想だ。[34] 民間空港を含めれば、日本には100近くの飛行場がある。ミサイル防衛の強化等と並行して、有事には空自のアセットを分散配置する態勢をつくれば、中国軍がそのすべてを破壊することは困難になる。(それをやれば、中国軍のミサイルのストックは大幅に減少し、その後の台湾攻撃に支障をきたす。)[35] 「分散配置」構想はダサく見えるかもしれないが、一定程度の効果は見込める。

【自衛隊と米軍が分散配置で使用するかもしれない空港(イメージ)】[36]

※ この地図は、有事において米軍・自衛隊を分散配置させるための空港を政府がリストアップしたものではない。しかし、自衛隊と米軍を分散配置させるとしたら、これらが候補になることはまず間違いないだろう。

 

「分散配置」態勢の下で生き残るのは、南西諸島や台湾から離れた空港となるだろう。生き残った空港を使った作戦の効率は落ちるが、集中配備して全滅するよりはマシだ。なお、破壊された滑走路等は専門部隊が復旧作業に取り掛かり、再び使用できるようにする。[37]

自衛隊機等を分散配置させるには、現状のままの民間空港では具合が悪い。例えば、受け皿となる飛行場の滑走路を硬化する等の手当てが必要になる。そのための公共事業は広義の防衛費と考えるのが当然だ。[38]

≪ミサイル防衛の地道な増強≫

我が国では近年、「北朝鮮や中国のミサイル技術が向上したため、ミサイル防衛(MD)では防げない。だから、敵基地攻撃能力が必要だ」というキャンペーンが張られている。その結果、MDの意義は不当に過小評価される風潮が見られる。[39]

本職の軍事戦略家は、MDが完璧な防衛システムでなければならないとは考えていない。仮に10発のうち7発しか迎撃できなかったとしても、通常弾頭ミサイルが10発着弾するのと3発しか着弾しないのとでは、一般市民の犠牲はもちろん、生き残れる自衛隊の兵器システムの多寡にも雲泥の差が出る。また、MDによって中国により多くのミサイルを〈消費〉させることの意義も大きい。ミサイルのストックが足りなくなれば、追い込まれるのは中国だ。

自衛隊は既に、イージス艦発射の「SM-3」(=大気圏外での迎撃)地上配備の「PAC3」(=大気圏再突入後に迎撃)「03式中距離地対空誘導弾」「基地防空用地対空誘導弾」等を配備している。だが、本当に有事になれば、現状の配備数と能力では全然足りない

【コラム① 木に竹を接ぐ「イージス・アショア搭載艦」】

2017年12月、安倍内閣は地上配備型のミサイル防衛システムであるイージス・アショア(陸上イージス)の導入を閣議決定した。[40] イージス・アショアは秋田と山口へ配備されることに決まったが、技術・予算上の問題が噴出しただけでなく、地元との調整も難航する。
2020年6月に河野太郎防衛大臣(当時)は突然、導入計画を停止すると言いだし、安倍もそれを追認した。ところが、ロッキード・マーチン社から陸上イージス・システムを購入する契約はキャンセルできなかった同年12月、今度はイージス・アショアの代替として「イージス・システム搭載艦」2隻を建造することが閣議決定される。政治に翻弄された防衛官僚たちが辿り着いたのは、陸上で運用することを前提に作られた巨大レーダー・システムを船に積み、2028年度までの就航をめざす、という奇妙奇天烈な結論であった。[41]

「新イージス・システム搭載艦(=本質的には「イージス・アショア搭載艦」)」は全長210m、幅40m程度という巨大艦になるらしい。[42]  当然、運航速度は遅い。ミサイル時代に重視される「小型化・迅速化(・ステルス化・分散化)」という要求に逆行しており、敵のミサイルや空軍機・ドローンにとって格好の標的となり得る。〈迎撃ミサイルの補充が容易〉という陸上イージスのメリットも艦載システムでは失われる。導入コストの方もイージス・アショアの約4千億円を超えるのは確実だ。[43]

日本は今後、ミサイル防衛の強化に取り組み続けるべきである。だが、それは正しい戦略・戦術があっての話。イージス・アショアの導入時とキャンセル時における政治の失態を糊塗するため、超高額・非効率・脆弱な防衛装備を購入するのは問題外だ。しかも、誰も過去の過ちに触れようとせず、責任もウヤムヤにしたままとは…。日本の政治も地に堕ちたものである。

 

課題4. 継戦能力

ウクライナ戦争は、現代におけるハイエンド紛争が大量の武器・弾薬・燃料・兵糧を消耗する戦いになることを、我々に思い知らせた。(AVP 第44号 「3. 継戦能力の差」を参照のこと。[44] )
自衛隊は大丈夫なのか? 答はノーと即答できる。継戦能力(=兵站を含め、有事に際して軍隊として組織的な戦いを継続できる力)の欠如は、日本の防衛態勢の最大の弱点の一つだ。

≪弾薬・補修部品の備蓄≫

去る10月6日、岸田文雄総理は衆院本会議で「自衛隊の継戦能力、装備品の可動数は必ずしも十分ではない」と述べた。しかし、「必ずしも十分ではない」と言うよりも、「お話にならないほどお粗末」と言う方が実態に近い。
防衛省関係者によれば、ミサイル防衛を担うPAC3の迎撃ミサイル(1発あたり数億円)は、「南西諸島で有事があれば数日も持たない」というレベル。機銃や迫撃砲の弾を含む弾薬全般の備蓄は「最大2カ月ほど」とされる。さらに、自衛隊の全装備品のうち、即時稼働できるのは半分強にとどまる。未稼働分の半数は部品・予算不足で修理できていないことが理由と言う。[45]

岸田内閣が今年6月にまとめた「骨太方針」には、「必要な弾薬の確保」「装備品の維持整備」が明記されていた。防衛費を増やせという声が高まる中、弾薬や補修部品の調達を強化するという方向性については、財務当局も同意しているのだろう。[46]

政府・与党は「今後は継戦能力を強化することにした」と〈したり顔〉で語り、まるで手柄を誇るような態度だ。しかし、これほど国民を馬鹿にした話もない。既に1980年代には、アーミテージ米国防次官補が「自衛隊の弾薬備蓄は、3日間から1週間しかもたない」と苦言を呈していたと言う。[47] その後も今日に至るまで、政治家や防衛省・自衛隊の幹部たちは戦車、戦闘機、護衛艦など正面装備を欲しがる一方で、弾薬や補修部品の調達は疎かにしてきた。つまり、「自衛隊は国民を守っている」と調子のいいことを言いながら、実際には全く守れない状況を何十年も放置してきたのだ。そのツケを一気に払おうとして増税まですると言うのなら、まずは懺悔ぐらいすべきである。

今後、弾薬や補修部品の備蓄を強化するのは良いとして、問題は「何から手をつけ、どの程度まで備蓄するか」という部分だ。
防衛費を増額すると言っても、予算には自ら限りがある。最優先で備蓄すべき弾薬類は、公海・公空における戦闘で使われるものであろう。例えば、ミサイル防衛用迎撃ミサイルのストックを増やす方が戦車の砲弾よりも先でなければならない。[48]

≪戦時調達体制の検討≫

戦いが始まってすぐに弾切れや稼働不能の兵器が続出するのは論外だ。しかし、戦争がある程度長引けば、備蓄は必ず尽きる台湾有事(=日米有事)が近い将来に起きる可能性は極めて低い――中国がいきなり台湾を武力統一したり、台湾が今すぐ独立宣言したりするような状況にはない――のに、自衛隊が1年も2年も戦い続けられる量を備蓄することは合理性に欠ける

現実問題としては、戦争が始まれば、備蓄した弾薬・部品を使いながら、国内及び海外から追加調達し、戦争を継続することになる。
政府は有事における国内調達・海外調達のシミュレーションを行い、関係企業や関係国とも水面下で打ち合わせしておく必要がある。日本列島が中国のミサイルの射程に入っている以上、日本企業による武器・弾薬等の製造が妨害を受ける事態も十分にあり得る。台湾有事では台湾企業からの半導体調達も困難になると考えておくべきだろう。頼りは米国だが、台湾軍や米軍も大量の武器・弾薬を必要とするため、米国の軍需産業が自衛隊に優先対応してくれる保証はない。欧州や韓国等の企業から代替品を調達できるか等をチェックし、対応策を練っておくべきだ。[49]

【コラム② 国家としての兵站】

本稿で議論しているのは〈自衛隊の兵站〉である。しかし、対中有事が現実のものになれば、〈国家レベルでの兵站〉という問題も出てくる。例えば、日本は1次エネルギーの自給率が12%程度しかない。石油備蓄が約230日分あるとは言え、戦局の推移によっては備蓄基地が攻撃を受ける可能性も否定できない。中露関係次第では、ロシアからの液化天然ガス輸入が止まることも十分に考えられる。

中国と戦争になった場合、日本に関係する船舶がマラッカ海峡経由で南シナ海を自由に航行することは困難であろう。(つまり、原油輸入だけが問題ではない、ということだ。)海上自衛隊にタンカー護衛の余力はないだろうから、中東原油を日本へ運んでくるためには、迂回航路をとるしかない。あるいは、米国から代替石油・ガスを購入し、中国の海軍力や空軍力が出張って来にくい太平洋方面から輸入する、という対応も考えられる。いずれの場合も、石油の値段が高騰することは避けられない。

なお、我々は「中国の脅威」ばかりに目を向けがちだが、台湾有事になって難渋するのは実は中国も同じだ。例えば、戦時には中国の船舶も南シナ海や「その向こう側の海」を自由に航行できなくなる可能性が高い。中国海軍は遠洋に展開する能力が低いうえ、艦船の大部分を台湾周辺に配置しなければならない。中国近海ならともかく、世界的な通商航路を巡って米海軍に対抗する力はない。(この一事を取ってみても「中国指導部は今にも台湾武力併合に打って出る」という俗論は〈素人騙し〉であることがわかる。)

≪輸送は大丈夫か?≫

ウクライナ北部へ侵攻したロシア軍は、武器・弾薬・燃料から食糧・医薬品・衣類に至るまで物資の補給を円滑に受けられず、キーウ攻略を断念した。(AVP第44号を参照のこと。) 戦前の日本軍もそうだったが、「正面装備」偏重で防衛力を整備してきた自衛隊の輸送力は決して褒められるレベルにはない。

中国との有事では、国内の主戦場は南西諸島や九州になる。全国から武器・弾薬・燃料・食糧等を南西方面に運ばなければ、戦闘は続行できない。自衛隊の輸送体制を総点検し、人員、輸送車両、補給艦、輸送機等の面で態勢を強化すべきだ。大量の物資が動くので、自衛隊だけで輸送を完結させることはできない。鉄道を含め、民間企業の協力を仰ぐ必要があろう。輸送部隊等の防衛や、輸送路が破壊された時の復旧対応など、水面下で検討しておくべき課題は山積している。

 

課題5. サイバー領域

ウクライナ戦争は「戦争当事国の双方がサイバー攻撃を繰り広げた」という意味でも歴史に残る戦争となった。[50] サイバー戦争(電脳戦)にかけては、中国もロシアに引けを取らない。対中有事が現実のものとなれば、中国は必ずや自衛隊のアセットや我が国の基幹インフラに対してサイバー攻撃を仕掛けてくる。ところが、現状ではサイバー領域における日本の実力は非常に低い。私は、ある人がサイバー防衛隊のことを「高級ネット・サーフィン部隊」と自嘲気味に呼んでいたことが頭から離れない。

≪穴だらけの体制≫

過去10年以上にわたり、「サイバー対処の強化」が叫ばれてきた。しかし、それは〈掛け声〉だけだ。サイバー攻撃から日本全体を防御する体制は今もって確立されていない。

防衛省・自衛隊〉に関しては、下図のようにサイバー防衛隊(2014年発足)と陸海空自衛隊の担当部署が対処することになっている。[51]

【防衛省・自衛隊におけるサイバー対処】[52]

一方で、〈防衛省・自衛隊以外の行政システム〉へのサイバー攻撃に対しては、内閣官房に置かれた「内閣サイバーセキュリティセンターNISC、ニスク)」が防護支援を行う。[53] ただし、〈立法府と司法府〉は所管外だ。
民間〉のサイバー対処は、基本的には企業の自己責任と言ってよい。重要インフラを担う14業種についても、NISCがサイバー攻撃に関する情報の収集・分析・共有を行ったりするにとどまる。企業等がサイバー攻撃を受けた際、NISCに報告することすら、義務化されていない

 米国はどうか? 〈〉のサイバーセキュリティは2010年に設置されたサイバー軍(US Cyber Command)が統括する。〈軍を除く連邦政府〉と〈重要インフラ〉のサイバーセキュリティは、国土安全保障省に設置された「サイバーセキュリティ・インフラ安全保障庁CISA、シザ)が担う。CISAは官民全てのサイバーセキュリティに関する連絡調整等を行うほか、官民の全組織から必要な情報を収集する法的権限を持つ。このほか、対外的な通信傍受(盗聴)の専門組織である米国家安全保障局NSA)も米国のサイバーセキュリティに重要な役割を果たしている。[54]

2018年10月に笹川平和財団は、日本へのサイバー攻撃に一元的に対応する実務機関として「サイバーセキュリティ庁」を設置すること等を内容とする提言書をまとめた。[55] 方向性としては概ね正しいと思う。年末の安保文書見直しで政府がどこまで踏み出すか、注視したい。

≪貧相な予算と人員≫

 2021年度当初予算概算要求での日本政府のサイバーセキュリティに関する予算額は919.3億円。[56] そのうち、防衛省分は335.5億円であった。
一方で、今年7月に米下院が承認した2023年度の米国政府サイバーセキュリティ関連予算は156億ドル(1ドル=145円換算で2兆2,620億円)。そのうち、国防総省分が112億ドル1兆6,240億円)で、CISAが29億ドル(同、4,205億円)だった。[57]
日本の防衛予算は米国防予算のざっと15分の1。しかし、防衛省のサイバーセキュリティ関連予算は米国防総省のサイバーセキュリティ関連予算の48分の1にとどまる。日本のサイバーセキュリティ予算は最低でも倍増すべきであろう。

人員面はどうか? 米サイバー軍の陣容は約6,200人。さらに陸海空など5軍種の下にその数倍の要員がいる。CISAは2,400人規模だ。一方で、中国は17.5万人のサイバー戦部隊を抱え、そのうち約3万人は攻撃専門部隊と見られている。北朝鮮のサイバー部隊も約6,800人を擁すると言う。[58]
これに対して、自衛隊全体でサイバー攻撃に対処する隊員は約890人サイバー防衛隊は今年拡充されたが、それでも540人規模NISCも200人程度(2018年)にとどまる。いずれも大幅拡充は不可欠である。[59]

サイバー要員の質はどうか? 自衛隊は2015年度から防衛大学校でサイバー安全保障に関する講座を開設した。来年度には陸自通信学校(横須賀市)を「陸自システム通信・サイバー学校(仮称)」に改編したうえでサイバー防衛の専門人材を育成する「サイバー教育部(同)」を創設する予定だと言う。[60] だが、そうした〈内部調達〉で育成できるのは〈普通の人材〉にとどまる。そうした要員の数を揃えることも必要不可欠なことではあるが、〈天才級〉の人材も一定数いなければ話にならない。高度サイバー人材の獲得を促進すべく、中途採用の柔軟化など大胆な手立てを講じるべきである。[61]

≪法制度上の問題≫

日本が実効性の高いサイバー防御態勢を本気で構築しよう思うのであれば、サイバーセキュリティに関する基本思想と法制度の面でも大変革が求められる。[62]

日本のサイバーセキュリティの現状は、攻撃されたシステムを復旧することが基本だ。これはコラム③で言う「消極的抑止」に該当する。攻撃側は無傷なので抑止力はほとんどない

その一方で、世界のサイバーセキュリティの潮流は、攻撃してきた相手を叩く「積極的サイバー防御(コラム③で言う「積極的抑止」)」に向かっている。攻撃相手をサイバー攻撃するためには攻撃元を特定する必要があり、そのためには第三者のシステムやネットワークへ事前に侵入しておくことが求められる。[63] ところが、その行為は憲法第21条2項に言う「通信の秘密」の侵害にあたり、「不正アクセス禁止法」違反になる。攻撃者のシステムを無力化するためのプログラムを作ることも刑法(「不正指令電磁的記録に関する罪」)に抵触する。
年末の安保3文書改訂で政府が以上の問題にどのような答を出し、来年以降、法改正や憲法解釈の修正等を行うのか、要注目だ。[64]

【コラム③ サイバーセキュリティの3段階】

平時におけるサイバー攻撃への対処は、防御する側がいかなる抑止概念と技術水準を持つかによって、以下の3種類に分かれる。

1)  消極的抑止:サイバー攻撃を受けた後に情報収集し、被害にあったシステムを修復する。それによって「すぐに復旧するから攻撃しても無駄」と思わせる。例えば、ある電力会社がサイバー攻撃を受けて電力がダウンした時、システムを可及的速やかに復旧させる。同時に攻撃の手口や対策を全国の電力会社等に周知して警戒を呼び掛ける。

2)  積極的抑止:サイバー攻撃の兆候を検知するか被害発生後に攻撃元を特定できたタイミングで、相手のシステムをサイバー攻撃して無力化する。上記の例で言えば、電力会社を攻撃した(しそうな)組織を突き止めてサイバー攻撃を仕掛ける。

3)  懲罰的抑止:攻撃を仕掛けてきた相手のシステムを無力化するのみならず、自国の受けたサイバー被害と同等以上のサイバー損害を相手国に与えられる報復能力を持ち、攻撃を受けたらそれを実行する。上記の例では、相手国の電力会社にサイバー攻撃を仕掛け、電力をダウンさせる。相手国の金融システムにサイバー攻撃をかける等のバリエーションも考えられる。

≪有事における日本のサイバー攻撃≫

桃山学院大学の松村昌廣教授によれば、近年の米国のサイバーセキュリティは上記コラム③で言う「懲罰的抑止」に重点を移している。日本の場合、現状は「積極的抑止」の段階にすら達していない。平時におけるサイバーセキュリティで「懲罰的抑止」に移行するとしても、かなり先の話となろう。

だが、「有事における日本のサイバー攻撃能力の構築」についても悠長に構えるのは、間違っていないか? 武力攻撃事態や存立危機事態で日本の電力網や金融システム等がサイバー攻撃を受けるようなことがあれば、自衛隊等が相手国にサイバー攻撃を仕掛ける選択肢と能力は当然持っておくべきだ。法的な整理としても、日本が武力行使の一環として行うサイバー攻撃は、不正アクセス禁止法や刑法等には引っかからないと考えてよいと私は思う。[65]

 

おわりに

本稿では、「航空優勢の確保・拡大」を強く意識しながら、「専守防衛の充実」に必要な5つの課題について議論した。[66]

先月行われたNHKの世論調査で、防衛費増額に賛成する人は55%にのぼった(反対は29%)。現下の安全保障環境の下、本稿で指摘した5分野を中心に日本が防衛力を増強することは不可避である、と私も思う。しかし、巷間言われている「5年以内にGDP比2%」という規模感とペースには反対だ。防衛予算を短期間で激増させれば(将来的なものを含め)大増税するしかない。国民生活への打撃もさることながら、日本経済や産業競争力は弱らざるを得ないその結果、中国との「より大きな競争」で日本は一層不利になる。中国に負けまいとして防衛力を激増させ、その結果、中国に対する負けを決定づける――。これでは〈愚者の防衛力増強〉である。

次号では、現在の防衛力増強論議に欠けている視点を提示し、防衛力増強の望ましい姿について考えてみたい。

 

 

 

[1] » 対中防衛戦略の要諦は「専守防衛の充実」にあり~ウクライナ戦争に学ぶ日本の防衛力整備③  Alternative Viewpoint 第45号|一般財団法人 東アジア共同体研究所 (eaci.or.jp)

[2] 航空優勢・海上優勢についての詳しい説明は、AVP 第44号のコラム②を参照のこと。 » ロシア苦戦の理由~ウクライナ戦争に学ぶ日本の防衛力整備②  Alternative Viewpoint 第44号|一般財団法人 東アジア共同体研究所 (eaci.or.jp)

[3] 一般論として言えば、自国の空軍基地から近い場所では、出撃回数を増やせり、自軍の防空システムを活用できたりするため、航空優勢を獲りやすい。

[4] 空軍基地から対象戦域までの距離が大きいほど、航空機の往復にかかる時間は増える。その結果、単位時間当たりで対象戦域に存在できる航空機の数に関しては、対象戦域から近い場所に空軍基地を持つ方が有利となる。

[5] ウクライナ戦争でも〈射程の差〉は戦局に大きな影響を与えている。ロシアが地上戦で投入したロケット砲は、TOS-1A(最大射程数km)やBM-27(最大射程35㎞)と言った旧式のロケット弾発射機。これに対し、ウクライナは米国から供与されたHIMARS(最大射程約80㎞&GPS誘導式)の配備を夏前頃から進めるようになった。HIMARSの導入は「距離の戦い(range war)」でもロシア軍を不利にし、その後ロシア軍が後退を重ねる要因の一つとなった。

[6] SOMを導入する方針自体は2018年12月に策定された現・中期防衛力整備計画に既に明記されている。(https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2021/pdf/R03020203.pdf) 当初は射程500~900㎞のノルウェー製及び米国製の巡航ミサイルを導入する予定だったが、部品不足や価格高騰等で大幅に遅延したり配備中止に追い込まれたりしているのが現状だ。2020年12月18日には、陸自の12式地対艦誘導弾を大幅改良する方針も閣議決定された。(https://www.kantei.go.jp/jp/content/000075220.pdf) ウクライナ戦争の影響で国際的な兵器調達競争が激化したこともあり、政府はSOMの国産開発を進める構えである。

[7] スタンド・オフ・ミサイルの説明はAVP 第43号のコラム②を参照のこと。

[8] r04_sankousiryou_01.pdf (mod.go.jp)

[9] 長射程ミサイル、1000発保有検討 政府: 日本経済新聞 (nikkei.com)
<独自>長射程ミサイル1500発規模整備へ 防衛省 – 産経ニュース (sankei.com)

[10] » 「敵基地攻撃能力」論議の真実 Alternative Viewpoint 第43号|一般財団法人 東アジア共同体研究所 (eaci.or.jp)

[11] 米巡航ミサイル「トマホーク」購入、日本政府が詰めの交渉…抑止力強化に不可欠と判断 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

[12] トマホークは従来、対地攻撃仕様が中心だったが、最近は対艦攻撃仕様も開発されている。日本が導入するのが後者であれば、直ちに中国領内の基地を叩くということにはならない。ただし、いざとなったら対艦攻撃仕様を対地攻撃仕様に変更することも可能ではある。

[13] これは距離的に中国領内のかなりの数の基地に届くようになるという意味である。トマホークを導入しても、中国を効果的に抑止できるわけではない。

[14] 移動式のミサイル発射車両を巡航ミサイルで攻撃することは基本的にできない。このことについては、AVP第43号で詳しく説明した。

[15] 潜水艦発射型であれば、中国大陸に接近してから発射できる確率は高まる。

[16] AVP第37号参照のこと。 » ウクライナの次は台湾? 【Alternative Viewpoint 第37号】|一般財団法人 東アジア共同体研究所 (eaci.or.jp)

[17] War Games Revealed US Military Vulnerabilities: Joint Chiefs Vice Chair (thedefensepost.com) Confronting Chaos: a New Concept for Information Advantage | Center for a New American Security (en-US) (cnas.org) 安全保障戦略研究_第2巻第2号2021.indd (mod.go.jp)

[18] ウクライナ戦争を米露の代理戦争として捉えれば、ロシア軍も米軍の域には達していないと考えられる。今年2月にウクライナへ侵攻を開始した際、ロシア軍は緒戦段階でウクライナのレーダー機能の無力化に失敗し、ロシア空軍はウクライナ上空での動きを探知されたうえに各種防空システムの餌食となった。その結果、ウクライナ北部で航空優勢を握ることができず、空からの偵察監視活動も不十分なものにとどまった。一方で、ウクライナ軍は米軍(及びNATO軍)からロシア軍の動向について潤沢な情報提供を受け――米軍等の情報収集は衛星、地上及び空中レーダー、通信傍受、サイバー、諜報員等によるものであろう――、ロシア軍を迎え撃ち、その後は反転攻勢に出た。

[19] 近い将来、〈精密誘導型の中距離ミサイル〉と〈遠隔地における移動目的(艦船等)のリアルタイム位置情報が組み合わされば、数千㎞離れた場所から空母等をピンポイント攻撃することも不可能ではなくなる。米中のどちらが先にその能力を獲得するか、開戦後に相手のセンサー群(衛星、OTHレーダー等)を破壊できるかは、戦局の帰趨に極めて大きな影響を与える。

[20] (少なくとも)有事においては、JADGEのデータは米軍と相互に共有されるはずである。

[21] 航空自衛隊HPの動画より。日本の平和を空から守る 平素からの対応① 警戒監視 等|航空自衛隊の役割|航空自衛隊について|防衛省 [JASDF] 航空自衛隊 (mod.go.jp)

[22] TPS-102については、本州から運んでバックアップとして使う分を含め、ある程度の在庫を持っておくべきである。

[23] Panda 51 – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=22526674による

[24] お互いに相手の音響監視システムの所在をどの程度把握しているのかは、戦闘が始まってみないとわからない。 Can-China-Take-Taiwan-v5.pdf (brookings.edu)

[25] Early lessons from the Russia-Ukraine war as a space conflict – Atlantic Council ちなみに、ウクライナ政府は自前の衛星を保有していない。それでも、米軍や西側の民間衛星会社からも軍事情報やネットワーキング・サービスの提供を受けている。西側の民間衛星会社の中でも有名なのがイーロン・マスクのSpaceXである。

[26] ロシアは開戦と同時にウクライナ軍も使っていた民間会社にサイバー攻撃を仕掛け、衛星インターネットをダウンさせたことが知られている。ロシアはSpaceXに対してもサイバー攻撃をかけている模様だが、今のところ、こちらはうまく防御できている。
ウクライナ戦争でロシアはミサイル等によって衛星を直接破壊することは控えている。ウクライナが衛星を保有していないことに加え、米軍や米企業の衛星を攻撃して米国から報復を受けることを懸念したのだろうか? なお、SpaceXの衛星コンステレーションは2,500基もの衛星群によって構成されているため、すべてを物理的に破壊することは不可能と考えられる。(中国の保有するミサイルを全部使ったとしても、すべての衛星を破壊することはできない。)

[27] 衛星コンステレーションは使用する衛星の数が多いため、そのすべてを物理的に破壊することは中露でも困難である。なお、衛星コンステレーションに関する日本の動きについては、下記参照のこと。 ミサイル情報収集へ衛星50基の打ち上げ検討 敵基地攻撃に利用視野:朝日新聞デジタル (asahi.com)

[28] 防衛省・自衛隊|令和3年版防衛白書|<解説>ミサイル防衛のための衛星コンステレーション活用の検討について (mod.go.jp)

[29] 「15分(または数時間)」の部分に関しては、人によって色々な数字が使われている。

[30] American Bases in Japan Are Sitting Ducks – Foreign Policy ただし、このシミュレーションは「米軍側が何の対策も取らない」という前提の下で行われたものと思われる。
最近の分析では、ブルッキングス研究所のオハンロンによる分析がシビアだ。オハンロンは「中国軍がミサイルを16発撃てば、台湾や日本にある空軍基地の滑走路の全幅を〈99%以上の確率で〉破壊することができる」と計算する。防御側がミサイル防衛などの対策を講じれば、滑走路の破壊に必要なミサイルの数は増えるが、それを考慮したうえでなお、台湾・沖縄・グアムにある軍用飛行場(10ヵ所強)のすべてを破壊するのに十分な数のミサイルを中国軍は保有している。したがって、中国軍が日米台の空軍基地に上述のようなミサイル攻撃を行えば、破壊された滑走路が修復されるまでの間、中国軍は航空優勢を握って台湾に大攻勢をかけることが可能になるとオハンロンは指摘する。(前掲 Can-China-Take-Taiwan-v5.pdf (brookings.edu) p.24.)

[31] 今年8月9日、クリミアにあるロシアのサキ空軍基地が攻撃を受け、ロシアは空軍機9機以上を失った。これにより、黒海艦隊の航空部隊の空軍力は半分以下となり、ウクライナ南部でロシアが何とか保持していた航空優勢は大きく損なわれた。サキ空軍基地に対する攻撃は、ウクライナによるものである可能性が高い一方で、攻撃形態については、ミサイル、ドローン、特殊部隊のいずれによるものか、明らかになっていない。いずれにせよ、サキ空軍基地の爆発事件は「空軍力の防御態勢が航空優勢を左右する」ことの証明事例と言ってよい。

[32] 本稿では紙幅の関係から航空戦力の生き残りに議論を集中した。しかし、生き残りを図るべきは、それにとどまらない。例えば、市ヶ谷の防衛省の地下には中央指揮所が置かれ、ミサイル攻撃にも耐えられる設計と言うが、地方での備えは心もとない。地下施設の建設や移動式司令部の設置等によって対処する必要があろう。

[33] » 「敵基地攻撃能力」論議の真実 Alternative Viewpoint 第43号|一般財団法人 東アジア共同体研究所 (eaci.or.jp)

[34] ミサイル防衛の強化は有効な対策だが、飛来するミサイルの数が多ければやはり防ぎきれない。航空機等の被害を減らす方法としては、①「掩体(えんたい)」と呼ばれるシェルターや地下格納庫等を整備する、②ミサイルの発射を察知すると同時に航空機を空中に逃がすような運用を行う、こと等がある。ただし、ミサイルが掩体を直撃すれば、掩体で航空機を守ることはできない。また、速度の遅い巡航ミサイルと異なり、発射から10分未満で着弾する弾道ミサイルから航空機を空中に逃がすためには、パイロットは常に滑走路にスタンバイしていなければならない。

[35] ウクライナ戦争でロシアは緒戦段階から積極的にミサイル攻撃を行ったが、開戦から1ヶ月も経った頃には精密誘導ミサイルの不足に悩み始めた。

[36] siryou3.pdf (cas.go.jp) p.2

[37] 滑走路は掩体で覆うことも移動することもできない。そのため、破壊されても早期に復旧できるよう、補修部隊の能力を強化することになる。滑走路は「ミサイルで攻撃されたら使えなくなる」とよく言われる。だが多くの場合、滑走路は短時間で修復可能だ。2017年4月にトランプ政権がシリアの空軍基地をトマホーク59発で攻撃した時も、滑走路は(おそらくロシア軍が修復して)数日後には以前と変わらず運用されていた。被害が比較的軽微であれば、米軍の専門部隊は数時間で原状復帰できると言うことだ。

[38] 中国のミサイル攻撃に伴い、空港や港湾周辺の一般市民にも犠牲が出ることは避けられない。有事に自衛隊機や米軍機を民間飛行場に分散配置すれば、自衛隊基地や在日米軍基地にとどまらず、全国の飛行場の周辺住民が危険にさらされることになる。自衛隊や米軍だけで戦う対中有事というものは存在しない、というのが現実だ。

[39] 「MDは極超音速ミサイルに対応できない」という難癖も耳にする。攻撃側で技術が進歩すれば、防御側もまた進歩する。しかも、極超音速ミサイルは高価なため、少なくとも当面、配備数は少ないはず。通常弾頭である限り、過剰に心配する必要はない。

[40] 前月に行われた日米首脳会談で安倍晋三総理(当時)はトランプ大統領から米国製兵器の購入増を求められ、この決断に至ったと言われている。

[41] 必要なことにお金をかけるのは仕方がない。だが、海上でのミサイル迎撃能力を向上させるのであれば、イージス艦の増設や海上仕様の新型艦を開発すべきだ。イージス・アショア搭載艦は、2017年11月にトランプから言われてイージス・アショアの導入を決めた安倍、防衛省の契約担当者、後先考えずにパフォーマンスでイージス・アショアの配備をキャンセルした河野たちの一連の失敗を表面化させないために数千億円使う、という話である。本当にひどい。行政改革やデジタル化でコスト・カッターのイメージが強い河野だが、イージス・アショア中止では、それ以上の無駄を生む決断をしていたというわけだ。私の聞いたところでは、彼一流の「瞬間的思い付き」で中止を決断し、役人たちに有無をも言わせなかったらしい。

[42] 政府与党内でも批判が出たのであろう、新型イージス・システム搭載艦は当初案よりも小型化する方向で検討が行われている模様だ。それでも、図体がでかくなることは避けられない。 新造のイージス搭載艦、小型化へ | Reuters

[43] 巨艦イージス建造へ 陸上配備代替、ミサイル防衛―「令和の戦艦大和」の声も・防衛省:時事ドットコム (jiji.com)

[44] » ロシア苦戦の理由~ウクライナ戦争に学ぶ日本の防衛力整備②  Alternative Viewpoint 第44号|一般財団法人 東アジア共同体研究所 (eaci.or.jp)

[45] 防衛装備品、5割が稼働できず 弾薬など脆弱な継戦能力: 日本経済新聞 (nikkei.com)

[46] 2022_basicpolicies_ja.pdf (cao.go.jp) 21ページ。

[47] 自衛隊の弾薬備蓄等に関する質問主意書:質問本文:参議院 (sangiin.go.jp)

[48] 10月21日、防衛省は弾道ミサイル防衛用のインターセプター(迎撃ミサイル)について「必要数の6割程度しか保有していない」という試算を明らかにした。この手の数字は条件をどう置くかによっていくらでも上下するので、「6割」という数字が高いのか低いのかは評価できない。ただし、インターセプターの備蓄を増やすことの優先度が高いことについては私も異存はない。

[49] 例えば、陸自の使う銃弾の一部は、日本企業が作る独自仕様のものを使っている。何でそんなことをしたのか知らないが、今後はNATO基準に切り替えるべきだ。

[50] ロシアによるサイバー攻撃については、ウクライナや米国がある程度公表している。一方で、米国やウクライナが仕掛ける攻撃は、米国が〈手の内〉を見せたくないためか、詳細があまり明らかでない。(AVP第44号参照のこと。)

[51] 2008年に自衛隊式通信システム隊が創設され、2014年に「サイバー防衛隊」として新編された。その後、2022年3月に「自衛隊サイバー防衛隊」として再編されて現在に至る。

[52] 防衛省・自衛隊:自衛隊のサイバー攻撃への対応について|防衛省・自衛隊の『ここが知りたい!』 (mod.go.jp)

[53] NISCとCISAの正式表記は、National center of Incident readiness and Strategy for Cybersecurity と Cybersecurity and Infrastructure Security Agency である。

[54] 現在は、ポール・ナカソネ陸軍大将がサイバー軍司令官とのNSA長官を兼務している。

[55] https://www.spf.org/global-data/cyber_security_2018_web.pdf

[56] https://www.nisc.go.jp/pdf/council/cs/dai31/31shiryou05.pdf

[57] U.S. House Appropriators OK $15.6B in Cybersecurity Funding (govtech.com)

[58] 自衛隊「サイバー防衛隊」540人態勢で発足…中国は17万人、北朝鮮も6800人 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

[59] 政府は今般の防衛政策見直しで、サイバー防衛隊を含む自衛隊の専門部隊の規模を2027年度までに4千~5千人に拡充する方向で調整しているらしい。 サイバー部隊、5000人へ拡充 防衛省、27年度5倍超に | 共同通信 (nordot.app)

[60] サイバー防衛人材を育成 横須賀・陸自通信学校改編へ | カナロコ by 神奈川新聞 (kanaloco.jp)

[61] 防衛省は既に年収2千万円以上でサイバー人材の募集を始めているが、優秀な人材の絶対数は全然足りてない。給与水準が問題なら、法改正(防衛省職員給与法)でも何でもすればいいし、学歴・職歴などの要件を大幅に緩めてもよい。純血主義を捨て、米軍や外国企業にも触手を伸ばすことも検討すべきだ。

[62] 本節の記述は下記を参考にした部分が多い。https://www.soumu.go.jp/main_content/000787278.pdf

[63] 攻撃側は「踏み台端末」を使っているため、ログ(データ利用記録)を追跡しても攻撃元はわからないことが多いためである。

[64] 並行して「政府によるプライバシー侵害を監視する第三者機関」を設置することも不可欠である。先に触れた笹川財団報告書は、政府によるプライバシー侵害を監視するための委員会を国会に設置するとしている。問題は実効性の確保であろう。

[65] 政府の見解は「いわゆるサイバー攻撃と武力攻撃事態及び存立危機事態との関係やこれらに該当する場合の対処の方法については、個別の状況に応じて判断すべきもの」という曖昧なものである。 サイバー攻撃を武力攻撃事態と認定するための要件に関する質問に対する答弁書:答弁本文:参議院 (sangiin.go.jp)

[66] もとより、本稿で日本の防衛課題のすべてを網羅しているわけではない。例えば、「無人の戦い」という重要課題にも触れることができなかった。ウクライナ戦争では、ロシアとウクライナの双方が偵察・欺瞞・攻撃用途で大量のドローンを使用している。攻撃的ドローンの標的も、従来はテロリストや軍事施設だったが、最近は民間人や民間施設が犠牲になることも少なくない。ドローンによる戦いでは、(攻撃側の)人命は失われない。民生品も転用できるため、ミサイルや戦闘機に比べれば兵器として非常に安価である。水上・水中型も含めた「無人の戦い」は、今後の戦争に大きな影響を与えることとなろう。ましてや、中国は世界でもトップクラスの「無人機大国」だ。防御面――物理的な破壊もさることながら、ジャミング等によるネットワークからの切断も有効である――や偵察面はもちろん、攻撃面でもしっかり適応しないと非常に危うい。頭の固い自衛隊が十分早く対応できるか、いささか心配だ。

 

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